2010.11.29
第2回 「山梨県甲府市・甲斐風土記の丘」後編
丸山塚古墳の階段を下りると、砂利道を隔ててすぐに、甲斐銚子塚古墳がある。
甲斐地方の最高首長が埋葬されていたとされる、全長169m、関東最大級の前方後円墳。名前のとおり、巨大な‘お銚子’のように横たわっている。
「この形、ウクレレにも似てるんですよね」
くびれ部分が、相方いわく「抱きしめたくなるほど」美しい。
長くて緩やかな前方部から、小高い後円部へとまっすぐに続く道をいざ進もうとしたところ、ウクレレさんが違う方向に歩き出した。
誰もいないと思っていた古墳広場の木陰に、女子グループを発見。地元笛吹市の中学生が、ジャージ姿で仲良く談笑していた。
彼女たちは古墳部ではなく、バレー部だった。
金髪と巨人(全長191cm)の怪しい中年リポーターに、愛想よく受け答えしてくれる。
彼女たちのリクエストに応えて、ウクレレさんが一曲。
♪私たち 笛南中学の バレー部よ〜 私たち一応 受験生よ〜
♪私たち でも勉強あんまり 好きじゃないのよ〜
私たち 古墳の近くで〜 おしゃべりよ〜
即興の歌に、喜ぶ女子中学生たち。
古墳と女子中学生とウクレレ。とてものどかな光景である。
「この大きな人、勉強得意だよ。東大出てるんだから」
「え〜っ! すっご〜い」「じゃあ、理科教えてくださ〜い」
MCを挟んでさらに盛り上がる女子中学生たち。久しぶりに黄色い声を浴びるゆう。
「そういえば、ゾノネムさんって何学部なの?」
一瞬言い淀んだ私が答えた。
「いや〜、自分、あの〜、えっと、宗教学科です」
ピーンと静まり返る女子中学生たち。思わぬリアクションにうろたえる。
宗教団体の勧誘と思われたのか……。それとも、山梨と言えば、上九一色村のあの……。
‘宗教’という一言に、彼女たちが心を閉ざした気がした。
「OH! マイ親鸞!どこかに隠れキリシタン」
ちなみにウクレレさんは高校が仏教系で、大学がクリスチャン系らしい。
再び、銚子塚古墳を歩く。高さ15mの墳頂を登り、甲府盆地を見渡す。
「これが本当の古墳ころがし」と柵を越えて、転げ落ちようとする金髪のヤス。
その向こうでは、先ほどの中学生たちが、いにしえの首長に捧げるかのように、黙々と踊りの練習をしていた。
「甲斐風土記の丘」の、もう一つの目当ての山梨県立考古学博物館に入る。
ナウマン象の歯、‘縄文王国・山梨’が誇る土器・土偶、卑弥呼の鏡とも呼ばれる三角縁神獣鏡をはじめ、県内の遺跡で発掘された、さまざまな出土品が、時代順に展示されている。
銚子塚古墳をかなり雑に再現したミニチュアや、何の変哲もない山かと思いきや、ボタンを押すと真っ二つに割れ、中から横穴式石室が現れる(ただそれだけの)ドーム模型、‘やっほー’という見たままのネーミングの土偶など、ビミョ—な展示物もありつつ、古代の歴史を満喫できる。
常設展の他に、土笛を発掘した中学生の自由研究「縄文の響き」のミニ展示、『日本古墳大辞典』といった高価な本や『原始生活百科〜キミも原始人になってみよう〜』など宝の山の図書室、ビデオやパズルを使った体験・学習コーナーもあり、考古学をにわか勉強するには絶好の環境である。
そして、‘ミスター古墳ころがし’を何より狂喜させたのが、バラエティに富んだミュージアムショップ。
「うわあ〜すっげぇ〜! こんなに充実しているところは、滅多にないですよ」
土器を大胆にプリントした縄文Tシャツ、はにわストラップ、古代遺跡発掘キッド……。
「あ、土偶キューピーだ! 僕、ほれ、はにわキューピー持ってますよ! うわあ、どうしよう」
パニックになり、「あ、あれも欲しい、こっちのも」とマイケル・ジャクソンばりに次々と購入する。
ウクレレさんは古墳よりも、古墳グッズの方が好きなのかもしれない。
土偶ミニチュアのガチャポンをやろうとして、小銭が足りずに困っていた私には、「絶対返して下さいね」と念押ししつつ、50円を貸してくれた。
楽しみどころ満載の博物館だが、この日の山梨日日新聞に、事業仕分けの対象になっているとの記事があった。毎年、四億円の税金が投入される赤字運営に、「廃止」一歩手前の「要改善」との厳しい評価が下された。
確かに、入場料は210円で、我々以外には、入場者はカップル一組だけ。ウクレレさんの大盤振る舞いも、焼け石に水か……。
前回の「茨城県水戸市・くれふしの里」に続いて、‘古墳ころがし’の行く手に立ちはだかる事業仕分けの魔の手。♪レンホー、やめて〜。
帰りに立ち寄った、甲府市内のほうとう屋では、ヘビメタ風ミュージシャンが、地方ラヴァーズに囲まれ、音楽談義に花を咲かしていた。
マニアック芸人の想像を刺激したのか、バンドのコンサートが勝手に再現される。
「オッケー! 続いてのナンバー、『埴輪人形の館』〜っ! ♪竪穴式の墓の土深く〜、吉村作治似の謎の老人〜」
「オッケー!メンバー紹介、オンベース、前方後円墳ヤマモト〜っ!」
「じゃあ最後にバリバリの大ヒットナンバー! 『レンホーやめて』! 」
「古墳愛してるか〜い?」
本人たちに聞こえたんじゃないかとハラハラしつつ、お店を後に。
高速土日1000円の影響で大渋滞の車中。
「少子化問題、どうすればいいか。まずは、やること。ケーケー!」
今度は、ケーシー高峰師匠のモノマネをたっぷり聞かされつつ、東京へ戻った。
ウクレレ芸人。
1月18日三重県生。
みうらじゅん氏に世界でただ一人の『人間僕宝』に認定されたウクレレ芸人。
ウクレレの弾き語りで、「マニアックでごめんネ!」のフレーズで、B級映画のワンシーンや、高倉健、ケーシー高峰などのマニアックなものまねを99連発する芸は圧巻。
99曲入り1stソロCDアルバム『ウクレレ番外地』(ビクターエンターテインメント)、健さん(ウクレレえいじ)が不器用解消のためにウクレレを習うウクレレ教則DVD『笑ってマスター!ウクレレえいじのもっと楽しいウクレレ』(リットーミュージック)も好評発売中。
また、ウクレレ奏者としても定評があり、サザンオールスターズ関口和之氏、CHAGE氏(チャゲ&飛鳥)らとレコーディングやライブなどで共演している。
ゾノネム
フケ専ラッパー。
代表曲に「早漏2005」「夢~ドリーム~」「虹」。
『ザンジバルナイト in 野音』にてグレートOと3年連続オープニングアクトを務める。
カラオケの十八番は安室奈美恵の「Chase the Chance」(ただし、100回以上歌っているが、いまだに2番のラップが苦手)。
好物はナン(カレー少なめ)。