＜辛亥の年（西暦471年）七月に書きます。私の名前は、オワケの臣。遠い祖先の名前はオホヒコ、その子の名前はタカリのスクネ、その子の名前はテヨカリワケ、その子の名前は……＞

さきたま古墳へ戻り、駐車場隣りの「はにわ処　さかもと」に立ち寄る。
行田名物ゼリーフライ、一枚80円を注文し、店内を見回す。

埴輪や土偶のレプリカ、キーホルダーなどの古墳グッズ、地元の野菜が所狭しと並べられている。

「これ、ほん物って」
見ると「ほん物」と書かれた縄文式土器の破片（千円〜15万円くらい）が売られていた。100円以上の買い物をすると、何を収録しているのかよくわからない『縄文土偶』とだけ書かれた埃まみれのVHSビデオテープがもらえるらしい。

「相当古いですねぇ。昔『REX恐竜物語』のビデオ見てたらテープが絡まって、買ったばかりのデッキが壊れたの思い出しましたよ。
いやしかし、このお店ワクワクしますねぇ。
※『REX 恐竜物語』は、1993年7月3日に公開された日本映画

♪ワックワックさせてよフフフ〜、ドッキ土器させてよフフフ〜」

ウクレレさんは、中山美穂の懐かしい曲を口ずさみノリノリ。
この人、古墳より、売店やグッズが断然好きみたいだ。

「千年以上前の古銭もあるよ。和同開珎（日本最古の古銭）より古いんだから」
古銭ガチャガチャを覗いていると、店主が声を掛けてきた。
「これだって珍しいよ、１億５千万年前のアンモナイト。もちろん、ほん物」
「へぇ〜、やっぱ、ほん物は輝きが違いますねえ」
聞き上手のウクレレさん、店主に完全に捕まってしまった。
そういえば、毎回地元のおじさんに長話を聞かされている。

その間に私は揚げたてのゼリー（銭の形に由来）フライをいただく。おからに人参やねぎなどの野菜が入っていて、ヘルシ—なおやつといった味わい。
結局、ゼリーフライ以外何も買わずに店を後にした。

すでに閉館時間を５分過ぎていた「さきたま史跡の博物館」へ。
受付の女性に、ウクレレさんがおみやげで買った、鉄剣のミニチュア鉛筆をかざして、アピールする。

「どうかひとつ」

小松政夫のギャグを交え粘る、必死えいじ。
内線電話で上司にかけあってもらい、何とか入館を許可された。
　 急いで周辺の展示物を流し見し、中央に飾られた「金錯銘（きんさくめい）鉄剣」に対面する。

「これ、マジで凄いですよ」

窒素ガスで満たされた特殊ガラスケースの中空に浮かぶ、超国宝が放つオーラ。
全長73.5㎝の鉄剣に金で刻まれた裏表115文字の漢字が、はっきりと読める。
『古事記』や『日本書紀』が完成する250年も前に書かれた、日本最古の漢字文。
日本考古学史上の大発見であった。

稲荷山古墳は、もともとの地主が財宝でも出てこないかと、前方部分をほとんど掘り崩していた。博物館を建てる際、何か出土品が必要になり、役所が、作業が一番てっとり早いという理由から、この古墳を発掘調査の対象に選んだ。

「鉄剣が出土しても、最初は、そのままの状態でした。10年後、修理のために、奈良の研究所で錆を落としてもらったら、文字が出てきたんですよ。全部たまたまなんです」
秋篠宮夫妻をはじめ、多くの皇族に応対したという、品の良い熟女ガイドが、残業もいとわず、説明してくれる。

銘文には、鉄剣を作らせたオワケという人物の先祖8代にわたる系譜、そして自分がワカタケル大王の親衛隊長として、国を治めるのを助けてきたことが記されている。

本の江田船山古墳から出土した、鉄剣にも（こちらは銀で刻まれた）ワカタケル大王の名があり、5世紀の後半には、すでに大王の支配が北関東から九州までに及ぶ強大なものであったことが、この発見によってわかったらしい。

「前に来た時は、鉄剣はなかったですな」
いつのまにか、見知らぬ老人が私たちの会話に入り込む。
鉄剣発見の大ニュースは昭和53年だから、前回老人がここへ来たのは、
一体いつのことなのか？

「天皇のご先祖様が、いかに大したヤリ手だったかってことですな」
ウクレレさんは、また長話を聞かされると思ったのか、今回は黙っていた。
「いや〜、貴重なものをありがとう」
謎の老人の言葉を合図に、我々も一礼。

「ゾノさん、今まで見た古墳の展示物で一番、凄かったですよ」
充実の古墳ころがしに大興奮のウクレレさん。
「やっぱ土偶キューピー、買おうかなあ」と、また売店に向かっていった。

（終わり）